トランスジェンダーの困りごととして、取り上げられることの多いトイレ問題。
特に思春期以降になると、性自認と異なる身体的性別に沿ったトイレに行くことを嫌がるようになって、我慢をしたり授業中にトイレに行くようなことが生じます。
排泄を我慢するのは純粋に健康に悪いですし、人によってはトイレに行くのが嫌だからという理由で水分を取らずに脱水症状を起こすこともあります。
また授業中ばかりにトイレに行くと勉強にも影響が出るほか「○○はいつも授業中にトイレに行く」と何か変な噂を建てられかねません。
ここでは学校という場に絞って、トランスジェンダーのトイレ問題にどのように向き合ったらいいのかを考えてみましょう。
反対の性のトイレを使えるようにすればOK?
性別違和により、トイレの使用に困っている生徒がいたときに「じゃあ、反対の性のトイレの使用を許可しよう」というだけでは、安易な発想と言わざるを得ません。
まず性別違和感を抱えている子供が必ずしも「性自認の性と反対の性のトイレを使用したい」という訳ではないということを認識しておきましょう。
そしてそもそも「割り当てられた性別に違和感を持っている」ことが必ずしも「反対の性別になりたい」と「=」ではないことは理解しておかなければなりません。
他身体的性と反対の性でのトイレを許可するだけでは何の解決にもなっていません。
まずは本人の希望を聞く
基本の方針としては、本人の希望を聞いたうえで、学校としてとることができる具体的な対応策の選択肢をできるだけ多く用意して提案することが重要です。
まず本人が死を選んでしまいそう、それが原因でいじめや不登校が発生しそうなど緊急性の高い事情がない限りは、大人からむやみに問いただしたりせず、本人が相談をしてくれるのを待つのがいいでしょう。
また、性別違和を抱えているのではないかという心配がある場合には、本人に聞く前に他の教職員や保護者に気になるところはないか聞いてみる方がいいかもしれません。
本人が相談をしてくれたら、まずは受け止めて、どんな状況が困ったり苦しいのか、どんな状況になれば学校生活をより楽しく送れるかをじっくり聞きます。
そして確認しておきたいのは、他の先生や保護者に話してもいいかどうか、どこまで話していいかです。
本人の希望を聞いたうえで、基本的には尊重します。
しかしもし、本人は「他の人に言わないでほしいけど、反対の性別のトイレを使えるようにしてほしい」などの希望を申し出た場合には、そうはいかないこともあるかともいます。反対の性のトイレ使用を許可するなどの対応を取るのであれば、他の先生だけでなく他の生徒にも理解を得る必要があるでしょう。
その場合には、本人にその必要があることをしっかり話して理解してもらう必要があります。または第三の道を探ることも考えてみてください。
「反対の性別のトイレを使いたい」という希望よりも「誰にも知られたくない」という希望が強いのであれば、時間がかかるかもしれませんが誰でも使えるトイレを創設する、普段使われていないトイレの使用を検討するなどです。
このような提案ができるように、学校側として具体的にとりうる対策案を、事前に用意しておくことが大切です。
親を通じて相談された場合も同様です。
まず親が、子供に同意を得たうえで相談をしているのか、それとも心配をして子供に話す前に学校に相談してきているのかを必ず確認します。
もし子供に同意を得ているようであれば、一度本人と直接話をしてみる方がいいでしょう。
またもし子供が知らないのであれば、直接的に子供本人に行動を起こすのは避けておきます。基本的には見守り、もし本人が相談してきたときに具体的な対応策を提案できるよう、準備を整えておきます。
「誰でもトイレ」の創設を提案する、もしそのような生徒が出てきたときにどうするかを話し合っておくなどです。
対応策例
ここでは対応策の例をいくつか紹介します。
留意しておきたいのは、あくまでも例ということ。
その子の希望や、周りの環境、学校の状況によって正解はありません。
自認する性のトイレの使用を認める
本人が自認する性のトイレの使用を認める、というのが対応の1つとして考えられます。
本人が希望している場合には一番単純な結論ですが、これが一番他の人や他の部分への影響が大きく、既に他の部分で自認する性での生活が認められている(制服など)場合を除いては、対処が難しいです。
実際、既に制服の着用や通称名の使用を許可されている場合など以外で、この対応をとっている事例はほとんどありません。
まず、他の生徒・保護者への説明、理解してもらうことが必要です。
少なからず、周りの子としてはこれまで異性だと思っていた子が同じトイレを使用するようになったら戸惑いが生じますし、不快感を抱く子もいるかと思います。
また必然的にカミングアウトになることは、本人にもしっかり伝えなければなりません。
職員用のトイレの使用を認める
他の生徒が使用しない、職員用のトイレの使用を認めるのも対応策の1つです。
職員内でしっかりとコンセンサスを得ておけば、他の生徒にあまりみられることなく、希望する方のトイレの使用ができます。
しかし他の子に「どうして○○は職員用のトイレを使用していいのか」と聞かれたときに、本当のことを言うのか、他のもっともらしい建前を用意しておくのかは本人と話し合って決めておく必要があります。
男女共用のトイレ使用を認める
男女どちらも使用できるトイレなどを使用してもらうのも1つ。
恐らく最初は、多機能トイレなどがその対象となりますが、もともとそのトイレを必要とし、使用している生徒がいるならばその生徒への配慮も必要になることは留意しておきましょう。
広がる「みんなのトイレ」
LGBTという言葉が広がり、トランスジェンダーに生じる日常生活での問題点が知られるようになる中、男女別でもなく誰でも使用できるトイレを設置する学校が出てきました。
愛知県豊川市の「一宮西部小学校」では、2017年3月に「みんなのトイレ」を設けました。
各トイレに入る前に、前室のような空間があるため、廊下からは誰がどこに吐いたのかが分からない設計になっています。
同市の「長沢小学校」でも同様に誰でもトイレが作られています。
学校以外の事例としては、京都市の「ホテルグランヴィア京都」、渋谷区役所などの事例が挙げられます。
少しずつ性的マイノリティに配慮されたトイレの広がりが評価される一方で、反対に虹のマークの表示や、男女半身の表示などで性的マイノリティであることが、必然的に分かる表示になってしまうなどの声も上がってます。
全員が納得する形での表示は難しいですが、それでも模索し続けることで、問題について考えるきっかけとなっていると言えます。
「学校」ならではの難しさ
「学校」という場は、家庭の次、ないし家庭よりも多くの時間を過ごす場であり、学校生活はもろに日常生活に影響します。
また子供は多感、こと中高生に関しては性に関することにはかなり敏感です。
そのような状況で「トイレ」に関する問題は、トランスジェンダー当事者だけでなく周りのこともにとっても、複雑な問題となります。
だからこそ学校としては、本人、そして他の教職員や意思決定者、保護者や時には他の生徒も巻き込んで、じっくり話し合いをすることが必要です。
また、他の生徒と一緒に考えることで性の多様性について考えるいい機会になるかもしれません。
ただし繰り返しになりますが、本人の意思をまずは一番に受け止め、本人がもし大ごとにしてほしくない、誰にも知られたくないという場合には、慎重に動きましょう。
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