LGBTも含めた多様な人材を確保したい、当事者がどんなことに困っているのか、企業としてどんな対策をとったらいいのか。
私は企業でのLGBTに関する研修を数多く行ってきましたが、そのような不安をもつ採用担当者の方がたくさんいらっしゃいます。
そんな悩みを抱える企業の採用担当者の方などに向けて、この記事では特にトランスジェンダーにフォーカスをして当事者の困りごとや、実際に企業研修で受けた質問と、私の回答をご紹介します。
トランスジェンダー当事者の困りごと
まずトランスジェンダー当事者がどのようなことで困っているのかです。
私自身の経験や、他の当事者から相談された内容をもとにご紹介します。
履歴書やエントリーシート
性別欄
戸籍上の性別を選択するべきか、自認している性別を選択するべきかで迷う人が多いです。
特に身体的治療が進んでいるが戸籍変更はしていない、という場合にはかなり迷ってしまいます。
そもそも、性別欄を記入すること自体に、精神的苦痛・抵抗を感じる人も少なくありません。
任意回答にする、「その他」「答えたくない」などの項目を設けるなどの配慮が見られることもありますが、回答しなかったり男/女以外の回答を選ぶことで、間接的にカミングアウトにつながることも。
そもそも性別記入欄を設けない、ということも検討してみてください。業種や職種によっては、性別の記入が必要なことがあるでしょう。
性別を聞くことが必須かどうかを、業種・職種に照らしてあらためて検討しなおしてみてください。
学校名
身体的治療が進んでいて見た目は性自認通りになっていたり戸籍変更も済んでいたとしても、男子校や女子高出身だった場合には必然的にカミングアウトすることになります。
面接時
服装や髪型
性自認の服装や髪型で行くべきか。
不審に思われないか、それだけで採用に不利にならないかが心配という声が聞かれます。
エピソード
学生時代に力を入れたこと、いわゆる「ガクチカ」エピソード、または自己PRを話す際に、セクシャリティに関する話をせざるを得ない場合もあります。
また、手術のためにひたすらアルバイトばかりをしていた、という場合には、話せるエピソードが限られてしまうという声も聞かれます。
内定~就職後
研修
泊まり込みでの研修などに不安を抱える人が多いです。
風呂やトイレが個別で利用できるのかどうか、という点が主に心配されます。
通称名の使用
戸籍上の名称ではなく、自認している性別として利用している通称名を利用して仕事ができるかどうか、という点です。
また給与明細などの書類発行も通称名を記載してもらえるか、なども気にすることが多いです。
これには戸籍名を変更する際に、職場での通称名の使用が、戸籍名変更の許可が下りやすくなる大きな材料になるという理由もあります。
服装
私服通勤は可能か、自認している性に合わせたユニフォームやスーツを着用してもいいのか、という点です。
健康診断
自認する性の集団受診は可能なのか、個別での対応が可能なのか、という点です。
着替えなどの事情があるため、個別対応の方がいいという人もいる一方、個別対応というだけで怪しまれる可能性があるため、自認する性での集団受診を望んでいる人もいます。
アウティングの心配はないか
職務や福利厚生の都合上、カミングアウトをしなければならない場合もあります。
その際にどの範囲まで知らせなければならないのかが明確になっていて、知りうる範囲の人から、自分の知らないところで勝手に他に漏れる(アウティング)の可能性はないか、これが当事者としては一番怖いことです。
企業研修で受けた質問
当事者の困りごとをご紹介しました。
もちろん受け入れる企業側も、疑問な点や不安な点があることと思います。
実際に企業研修の際に受けた質問の例をご紹介しますが、もし他にも疑問や不安があれば問合せフォームから気軽にご連絡ください。
- エントリーシートや履歴書の性別欄に「その他」を設けるのはいいのか?
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ないよりはあった方がいいと考えます。もしくは性別欄に「戸籍上の性別:男・女」とすれば、当事者としては割り切ってチェックすることができます。
ただ、そもそも自社の採用において「履歴書で性別を明確にする必要があるのか」という点は検討してみてください。
今の日本では「普通、履歴書と言えば名前・年齢・性別・学歴を書くものだから、項目を設けている」という企業が大半だと思います。
しかし多様な人材を確保したいと考えているのであれば、その「普通」を疑うことから始めることが大切だと思います。 - どうしたら当事者から、相談したいと思ってもらえるか?
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まずは、募集ページやコーポレートサイトにダイバーシティ推進についてどのような取り組みをしているかを記載することが必要だと思います。
LGBTに関しては、会社の入り口にレインボーフラッグを置いたり採用担当者の名刺やネームフォルダに虹色を取りいれることでアライであることを表明するなども有効です。
ただし実際に担当者が何も理解をしていないまま企業イメージアップのためだけに虹色を取り入れたら、当時者が実際に話したときに「この企業は何もわかっていない」とむしろマイナスに捉えられる可能性があるので注意しましょう。
採用担当者への教育は欠かせません。
未治療のトランスジェンダーでこれからホル注や性別適合手術を望んでいる場合には、相談しておきたいことがたくさんあると思います。
そのためますは企業として「こういう相談できる環境がある」ということを目に見える形でアピールしていくことを推奨しています。 - カミングアウトを受けたとき、どのような反応をしたらいいのか?
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まずカミングアウトは「かなり勇気がいる行為」
当事者としてはどんな反応をされるかバックバクです。
だからまず「話してくれてありがとう、言いずらかったよね。」と安心をさせて「この人なら大丈夫だ」と思ってもらうことがベストです。
そうすると、今後障壁があった際に相談しやすくなります。
そしてもし質問しなければならないことがあれば「いくつか聞かせてほしいことがあるけど、答えたくないことは答えなくていい。もし理解不足で失礼なことを言ってしまったらごめん。その時には勉強の為にも教えてほしい。」というような前置きがあると、とても話しやすくなると思います。
そして基本的に、それ以外の話の時には普通に接してくれるのが一番です。 - トランスジェンダーだと分かった場合、企業側から聞いておくべきことはあるか?
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基本的には「あえて聞き出す」ことはありません。
ただ物理的な障壁がある場合に「どのような対応を望んでいるか?」を聞く必要があります。
例えば
・更衣室は、男女どちらをつかいたいか、または個室がいいか
・健康診断は、他の社員と日時をずらした方がいいか
・社員研修旅行などの部屋割りはどうするか
等です。
企業が良かれと思って、特別扱いしたことが本人の希望とは異なる場合もあります。
もちろん企業として本人の希望を全面的に通すことが難しい場合もあるでしょう。
本人の希望を聞いたうえで、自社で出来る対応を提示し、すり合わせを行う必要があります。
当事者の方へ
ここで少し、当事者の方に向けてのメッセージです。
僕たち当事者がどうしたらいいか分からないように、ダイバーシティを推奨している企業の方々も、正解が分からず模索しています。
分からないからこそ、研修を受けてくださり必死に考えてくださっている企業があるということを忘れないでください。
当事者の方が
「性別記述欄どうしよう」
「通称名で書いていいかな」
「面接でカミングアウトはやめた方がいいのかな」
「採用に不利になるかな」
と色々考えてしまうように、採用側も
「失礼なこと言っちゃってないかな」
「どこまで聞いていいのだろうか」
「うちでは、この人に対してどんな配慮ができるだろうか」
と考えてくれています。
だから「話し合うこと」を大切にしてみてください。
最後に
当事者の企業側も、双方正解は持っていません。
もしマニュアルのようなものがあったとしても、人と人との付き合いなので人それぞれ求めるものは変わってきます。
この記事で書いた答えは、他の当事者、今まで関わってきた企業の方々を見てきた僕なりの考えを元にしたものです。
賛否両論あるでしょうし、これが正解かどうかも分かりません。
色々な考えがあるからこそ僕は「話し合うこと」を大切にするべきだと思います。
固定概念に縛られず、相手をよく見て話しをしてお互いの理解を深めていくことが大切なのではないでしょうか。
また僕はLGBT研修でこのような話をたくさんしてきましたが、LGBTの話はきっかけにすぎず、それ以外にも色々な人がいて、色々な価値観があって、色々な悩みや問題を抱えている人がいるということを、改めて認識する機会にしてもらえたらなと常々思っています。
LGBTに限った話ではなく「話し合うこと」を大切にして、理解をしあうことがダイバーシティ推進の第一歩だと考えています。
少しでもそのお手伝いができたら幸いです。
当事者の方、企業関係者の方で、就活で困ったことや心配なことがあれば問合せフォームからご連絡ください。
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