トランスジェンダーと保険の話。治療の保険適用と民間保険加入について

トランスジェンダーにとって大きな壁となる「治療費」の問題。
性転換手術には数十万~数百万円の費用が必要です。

もし保険適用で行うことができれば、その費用負担は大きく軽減されます。
しかし保険適用での性転換手術には大きなハードルが……。

そして治療を終えたトランスジェンダーに次にはばかる壁。それが民間保険に入りにくい!!という現実です。

この記事は「トランスジェンダーと保険」をテーマに、保険の営業の方からの情報を踏まえて詳しく解説します。

目次

性転換手術は保険適用にならない?

性転換手術は、だいたい100万前後は必ずかかってしまいます。
これが保険適用で出来れば、これほどありがたいものはないですよね。

それが実は、2018年から性転換手術は保険適用の対象になっているんです!!
保険適用ということは、自己負担は3割になります。
しかし保険適用になったものの、実際に行われた性転換手術のうち、保険適用が認められたのはたった1割程度です。
なぜこんなにも割合が低いのでしょうか?

その原因は、性転換手術を行える病院の制限と治療の手順に関する取り決めにあります。
詳しく見ていきましょう。

保険適用で性転換手術ができる病院は7つだけ

保険適用で性転換手術を行うためには、学会が「安全に性転換手術を行える」と認定した病院で手術を行うことが必須条件です。
そしてその病院は、2021年現在でも日本でたった7つだけ。
岡山県の岡山大学病院、光生病院、山梨県の山梨大学医学部付属病院、愛知県の名古屋大学医学部附属病院、北海道の札幌医科大学附属病院、沖縄県の沖縄県立中部病院、千葉県の行徳総合病院です。

立地上、この病院に事前検査などで何度も通うことを考えると、保険適用外でも近くの病院やクリニックで手術をした方がいい、と考える人も多いのが保険適用での性転換手術が広まらない1つの理由です。

ホルモン治療をしたら保険適用にならない

保険適用の条件として、「性同一性障害の初めての身体的治療が性転換手術」でなければいけません。
つまり、ホルモン治療や胸オペを先に行ってしまっていると保険適用から外れてしまいます。

ここで、治療の手順をある程度知っている人ならピンときますよね。
ほとんどの人が、性転換手術前にホルモン治療を行うのです。
また、日本精神神経学会が策定している「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」では、希望する性別での生活をほぼ完全に送れており、その状態が1年以上後戻りすることがないことが、性転換手術を行う条件の1つとなっています。
そして、ホルモン治療などの身体的治療を行っていない場合には、さらに長い期間の観察が望ましいとされています。

これが、ほとんどの性転換手術が保険適用にならない最大の理由です。

現在戸籍変更前のホルモン治療は、保険適用外の「自費診療」です。
ホルモン治療を行いながら性転換手術を行うのは、国の保険の適用範囲で行う「保険診療」と保険適用外の「自費診療」を併用して行う「混合診療」というものにあたります。
「混合診療」になると「保険診療」部分だけを保険適用で行う、ということができず全てを自費で行わなければならない、と決まっているのです。

以上、保険適用での性転換手術が行える病院が国内に7つしかないこと、ホルモン治療を行う前に性転換手術を行わなければならない、という2つの理由から、保険適用での性転換手術がなかなか広まらない理由です。

そのため現状の保険適用条件が続く限りは、自分で手術費用を貯める必要があります。

トランスジェンダーは民間保険に入りにくい?

保険に関して、トランスジェンダーにはばかる壁のもう一つが民間保険に入りにくくなることです。
実際に保険を販売している方から聞いた話を踏まえて、トランスジェンダーと民間保険について解説します。

戸籍変更すると生命保険に入りにくくなる!

特に「身体の治療を終えて、戸籍の性別を変更した後」になってしまうと、入れる保険がとっっっっっても少なくなります。

やっとの思いで戸籍変更も終えて、晴れて異性と結婚してなんと体外受精などで子供も授かることができた!家族ができたから生命保険には入っておこう!!
と思ったら、戸籍変更済みのトランスジェンダーが入れる生命保険は、今のところ5つ程度しか選択肢がありません。

そして保険料も通常より多少高くなります。

医療保険も入りにくい!!

医療保険に関しても、入れるものがかなり限定されます。
そして保険料も比較的高くなります。

トランスジェンダーが民間保険に入りにくい理由

トランスジェンダーが保険に入りにくい理由は、端的に言うと「まだ統計が少ないから」という一言につきます。
保険会社が保険商品を作ったり保険料を定める際には、年齢や性別などによっての死亡率など、様々な統計が元になります。

女性と男性、どっちの統計に当てはめる?

まずトランスジェンダーの場合、保険料を策定するための性別を、戸籍変更前の性別と、戸籍の性別どちらの統計に当てはめたらいいのかが分からない、というのが保険会社としての見解です。

トランスジェンダーの統計はない!

トランスジェンダーは、性転換手術、ホルモン治療を継続的に受けています。
継続的にホルモンを投与している人の健康状態や、寿命に関する統計は現在ほとんどありません。
そのため、保険会社としても商品を作りにくいというのが現状だそうです。

また性転換手術により、手術歴があるということになるので、持病や病歴がある人でも入りやすい「引き受け基準緩和型」に入るという選択肢をとるしかなくなってしまうのが現実です。
その場合、比較的保険料が高くなってしまうのです。

実際には、ホルモン治療を受けていると定期的に血液検査を受けて健康状態をチェックしているので、むしろ普通の人よりも健康だったりするのですが、統計がない以上なかなか難しいというのが現状です。

トランスジェンダーが民間保険に入るには?

トランスジェンダーが民間保険に入るには?

もうすでに戸籍変更を終えている人は、今後トランスジェンダーでも入りやすい保険商品が出るのを待つか、親切な保険代理店の方などに相談をするしかありません。
もし当事者の方で保険を探している方がいたら、たっしーまでこちらのフォームからお問合せください。
とても親切な保険会社の方をご紹介させていただきます。

そしてまだ戸籍変更を終えていない、ないし身体的な治療をまだ行っていない方へ。
今もしかしたら、早く治療をしたい、早く戸籍変更をしたい、という気持ちでいっぱいかもしれません。
分かります。僕もそうでした。

しかしたまに立ち止まって考えてみてください。
「戸籍を変えてどうしたいのか」「戸籍を変えたらどんな人生を歩みたいのか」

そう考えたときに「大好きな異性と結婚をして子供を授かって、幸せな家庭を築きたい」「万が一のことがあった時にお金に困らない人生を歩みたい」と、戸籍変更のその先を見据えたときに、人生には「保険」というものが関わってきます。
結婚して子供ができたら、生命保険にはほとんどの方が入ります。
突然働けなくなるリスクは、誰にでもあり備えておく必要があります。

戸籍変更をしてから、そのことに気付いて保険に入ろうとすると、選択肢は治療前、戸籍変更前から比べると入れる保険の選択肢がぐーーーーーーっと減ります。そして保険料も高めになってしまいます。
戸籍変更前、治療前に入ってしまえば、通常の健康状態と同じ条件で選ぶことができ、その後に治療をしようが戸籍変更しようが、もう大丈夫です。

それをもし、治療を始める前や戸籍変更をする前に知っていたら、僕はどうしていたかなぁとふと考えました。
正直「その時はそれどころじゃなかったな」っていうのが本音です(笑)

でもこの記事を読んだあなたは、もう知ってしまいました。
それを知ったうえで、どんな判断を下すかは自由です。

ただ一つ考えてほしいのは「戸籍変更はゴールでない」ということ。
むしろスタート時点です。
だから、ぜひその先の未来を考えながら判断をして下さい。

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